テロリスト・レモンは目ざめる
　いつものように　すがすがしく
　五月の朝まだき
　街は　まだ眠っている
　醒めればどうにかなるんだといった眠りをむさぼる
　世界中の
　みにくい
　都会という都会
　街という街へ
　テロリスト・レモンは目ざましをくれに
　颯爽と出かけてゆく


　レモンはうたわない
　レモンの歌は
　白昼のビル街に炸裂する
　数本のダイナマイトだ
　

　
　レモンは
　目ざまし時計の針のように
　鋭い
　街の痛みである


　レモンはふるえない
　レモンの恐怖は
　十二月の都会をおそう
　白い獣の体温だ


　八月の都会が
　とけそうなアスファルトの胎盤と　
　鉄とガラスの子宮でつくった
　陽炎
　不滅のＮＯＮ！
　それがレモンだ


　レモンは泣かない
　レモンのなみだは
　十一月の黒いこうもり傘をぬらす　
　都会の空の悲しみだ
　

　
　大理石のくつをはいて
　きょう　レモンは街を歩く
　錆ついたちょうつがいのように
　半分死んでいるこの都会
　テロリスト・レモンがその腕をひと振りすれば　
　たちまち　目がさめる


　爆風でふきとばされた人々を
　割れたガラスが　ゆっくりとかみくだき
　路上にながれた血液は
　アスファルトが　のどをならして飲みほす　


　眠りから醒めた街は
　犯罪と同じくらい
　美しい
　

　
　こわれたマネキン人形よろしく
　首や手足のもげた
　土いろの
　肉体とその切れっぱしは
　赤い液にたぷたぷ浸り
　なんて痛烈(シビア)なショー・ウィンドーだろう！　


　都会の祭日は
　恐怖を祀るためにある
　街は
　この熱い祭りをつかさどる
　テロリスト・レモンを
　必要としている


　眠っている
　世界中の
　街という街
　いぎたない
　都会という都会は
　目ざめるために
　レモンを必要としている


　レモンという
　痛みを必要としている